中小企業では「プログラムが分かる人材」の優先度は高くない。

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2021年版の中小企業白書から②

そもそも、IT人材とデジタル人材の違いは?

前回記事(⇒「中小企業のデジタル化動向ってどんな感じ?」)では、私自身が感じる現場の肌感覚のようなものと照らし合わせながら、2021年版の中小企業白書の内容を眺めてみました。今回も同じく白書を見ながら話を進めていこうと思っていますが、今回は、特に『人材』という面に絞ってみます。

ITについてのさまざまな記事の中で、『IT人材』『デジタル人材』という単語を頻繁に目にします。
同じ意味なのか? 異なる意味なのか? これらの単語の意味が明確に区別されるものなのか、同義語として使用されるものなのか、両方の単語の定義(使い分け)が登場する資料が無いかを調べてみました。

ありました!
経済産業省『IT人材需給に関する調査 調査報告書』の中に、それぞれの説明が含まれており、要約すると次のように記述されています。調査報告書の中では「所属部門」といった観点から両者を定義し分けていますが、『IT人材』の中で、現場部門に所属して業務やビジネスのデジタル化を推進する役割の担う人が『デジタル人材』とのこと。

  • デジタル人材(=現場IT人材)
    • ユーザー企業のデジタル化を推進するための組織に所属する人材
    • ユーザー企業の情報システム部門以外の事業部門においてITを高度に活用する人材
    • ITを利用する一般ユーザー等
  • IT人材
    • 情報サービス・ソフトウェア企業においてITサービスやソフトウェア等の提供を担う人材
    • ITを活用するユーザー企業の情報システム部門の人材
    • 上記「デジタル人材」を含む。

いささか乱暴な表現であることはご容赦いただくとして、現実社会のニュアンスとしては、IT人材は「IT道具を生み出す人」、デジタル人材は「IT道具を使ってビジネス価値を生み出す人」のように使い分けられているようには感じます。主たる役割が違うだけで、いずれも、価値ある人材であることには変わりありませんし。もちろん、両面のスキルを兼ね備えて活躍されている優秀な人も多くいます。

中小企業白書に必要なのは、IT人材? デジタル人材?

前記事の中で、従業員100名以上1,000名未満規模の企業でさえも、「ひとり情シス」「ゼロ情シス」の企業が全体の約3割を占めているという調査結果をご紹介しました。もし、そのような状況下で、「一人だけ新規採用できるとしたら、IT人材とデジタル人材、どちらの採用が先ですか?」とご質問いただくことがあれば、私は迷わずに「デジタル人材」とお答えします。

社内にIT人材・デジタル人材が少ない中にあっては、どうしたって外部ITベンダーのサポートが必要なシーンは発生します。そうした場面においても、社内のビジネスや業務を俯瞰的に考え、費用対効果を含めたベターなソリューションを考えることは、「デジタル人材」と呼ばれるに相応しいスキルを持つ人でなければできないと思うためです。

前出『IT人材需給に関する調査 調査報告書』の中で、IT人材需給に関する試算結果(生産性の上昇率を、情報通信業の2010年代と同水準の0.7%と想定の場合)として次のような図が掲載されています。

『IT人材需給に関する調査 調査報告書』IT 人材需給に関する試算結果の対比

更に、上記とは別の資料出典となりますが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の『IT人材白書 2020』(⇒IT人材白書)には、IT人材の動向として次のような図がありました。

『IT人材白書 2020』IT人材の動向(ユーザー企業)

IT人材全般的に「量」の不足が予想されている訳ですが、現状においても、既に人材の「質」の不足感が指摘されています。

私自身、IT業界の中でも「システム開発」や「Web制作」という領域の中で約20年にわたって活動してきました。一般社会でのIT技術の発展同様、IT業界の中でも「モノを作るためのIT技術」が発展する様子を見てきました。その効果として、作業生産性が継続的に向上し続けているのは事実ですが、一方、ITの基礎力やビジネススキルを殆ど持たず、単にプログラムが書けるというだけでIT業界に流入してくる人材も増えました。社員教育ということに具体的な投資を行わない企業も少なからず存在し、IT人材(ここでは、デジタル人材以外のIT人材)の平均的な質は下がっているように感じることもあります。

だからこそ、いざという時に「アウトソースしても、うまくいかないリスクは大きい」「優秀な人材をピンポイントで探し当てることは難しい」ということを前提に、将来への投資として、自社内にデジタル人材を養成しておくことは重要課題なのではないかなと思うわけです。

中小企業における人材の確保状況は?

中小企業白書に戻って、中小企業のIT人材の確保や育成の状況について数字を眺めてみることにします。相対的に御社がどのようなポジションにあるか、是非、自社の位置をプロットしてみてください。

IT人材の確保状況(1人以上確保できている割合)
デジタル化の取組全体を統括できる人材
44.8%
ITツール・システムを企画・導入・開発できる人材
43.1%
ITツール・システムを保守・運用できる人材
53.4%

図「IT人材の確保状況(1人以上確保できている割合)」を見ると、デジタル人材に相当する「デジタル化の取組全体を統括できる人材」については、確保できているのが半数以下ということ。

また、図「IT人材確保における課題」によれば、「IT人材を採用・育成する体制が整っていない」と回答する企業の割合は半数以上を占めており、体制面での課題を認識していることが分かります。ただし、ここには掲載していませんが、「IT人材の確保方法と育成方法」の調査において、人材の確保方法として「既存社員の育成」を挙げている企業が、「新規社員の採用」や「外部人材の活用」と比べて多く、「誰か」を任命してはいるが、体系的な育成制度の整備不足、育成に関わるメンターやトレーナーの不存在により、十分な成果を上げられていない状況が推測されます。

IT技術という目に見えづらい難しいものを扱いますし、また、「教える」ということについても、ご存知の通り特別なスキルを必要とします。デジタル化人材ともなれば、そこに更に、企業レベルの「ビジネスを考えられる」という特性が必要とされるわけですから、「取り敢えず、君、新人君を育てておいて」という簡単なものではなさそうです。

やがて、自社内でビジネス人材教育をできるような体制を目指していくとしても、やはり、そのような文化・実績のない当初の間は、デジタル人材としての経験を積んだ外部人材にアウトソースすることの検討が必要だと考えます。

ITやデジタルに限らず、「人を育成する」ということには「年」単位の期間を要するもの。
先ずは、検討だけでも、さっそく始めてみてはいかがでしょうか。

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